米製粉業界に構造変化 GLP-1普及で小麦粉需要が25年ぶり低水準へ
米国ではGLP-1系減量薬の普及や健康志向の高まりにより、小麦粉需要が低迷。製粉業界は高たんぱく・高食物繊維原料への投資やAI活用を進め、事業構造の転換を加速させている。
環境
藤井誠司
6/5/20261 min read
GLP-1普及と健康志向が変える米国穀物食品市場
小麦粉需要が長期低迷局面へ
米国の製粉業界で需要構造の変化が鮮明になっている。アーデント・ミルズのシェリル・ウォレスCEOによると、米国の一人当たり小麦粉消費量は過去25年で最低水準となり、小麦粉生産量も2011年以来の低いレベルまで落ち込んだ。2025年の製粉設備稼働率は85%と近年平均を下回り、需要減少が業界全体の課題となっている。
背景には人口増加の鈍化だけでなく、消費者の食生活そのものの変化がある。従来は人口増加によって需要減少が相殺されてきたが、その効果が薄れ始めている。
GLP-1減量薬が食品需要を変える
近年、肥満治療や糖尿病治療で使用されるGLP-1系薬剤の普及が急速に進んでいる。
アーデント・ミルズの調査では、米国成人の約8%がGLP-1薬を利用しており、2025年末には約2,300万人、2030年には3,000万~4,000万人に達する可能性があるという。
GLP-1利用者は食事量が減るだけでなく、購入する食品の内容も変化する。高たんぱく質、高食物繊維、低糖質、栄養密度の高い商品を選ぶ傾向が強まっている。
その結果、従来の精製穀物中心の商品よりも、健康機能を付加した食品への需要が高まっている。
「量」から「質」へ移る消費者ニーズ
食品業界では、消費者の総摂取カロリーが頭打ちになりつつあるとの見方が広がっている。
市場全体の食べる量が増えない中で、消費者は「一口あたりの価値」を重視するようになった。アーデント・ミルズはこれを「ベネフィット・スタッキング(複数の健康価値を一つの商品に集約する考え方)」と表現している。
例えば、
高たんぱく質
高食物繊維
全粒穀物
グルテンフリー
植物性原料
などを組み合わせた商品開発が活発化している。
特に食物繊維と植物性たんぱく質を兼ね備える豆類原料への関心が高まっている。
政策変更が企業負担を増加
需要変化に加え、米国では食品政策の見直しも進んでいる。
「Make America Healthy Again(MAHA)」の流れの中で、州ごとの表示規制や原料規制が拡大し、企業は複雑な法規制への対応を求められている。ウォレスCEOは、こうした規制の細分化がサプライチェーンの複雑化やコスト増加を招いていると指摘した。
今後は「超加工食品」の定義や食品添加物制度の見直しなども議論される見通しであり、食品メーカーにとっては商品設計と規制対応の両立が重要になる。
業界再編と新たな成長戦略
需要低迷を受けて製粉業界では設備統廃合が進む一方、新たな成長分野への投資も活発化している。
アーデント・ミルズはひよこ豆や亜麻仁を扱う施設を取得し、高たんぱく・高食物繊維市場への対応を強化している。また、AIによる画像解析や熱画像システムを導入し、生産効率向上にも取り組んでいる。
まとめ
米国穀物食品市場では、GLP-1系減量薬の普及、健康志向の高まり、食品政策の変化が同時進行している。これまで需要を支えてきた精製小麦中心の市場は転換点を迎えつつあり、今後は「高たんぱく」「高食物繊維」「高栄養密度」が食品開発の中心テーマになる可能性が高い。製粉業界は単なる原料供給産業から、健康価値を提供する食品素材産業への進化を迫られている。
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